構造展 -構造家のデザインと思考-

構造展 -構造家のデザインと思考-_1
会期 2019年7月20日(土)~ 2019年10月14日(月)
会場 建築倉庫ミュージアム
住所 東京都品川区東品川2-6-10[地図
アクセス 天王洲アイル駅 徒歩4分
公式サイト 建築倉庫ミュージアム

展覧会の内容

建築家との対話を繰り返しながら構造システムを検討する構造家の思考とデザインに焦点を当てた展覧会『構造展 -構造家のデザインと思考-』へ行ってきました。

1950年以降に日本の構造家が築いてきた美学や感性をスケッチ・図面・模型・映像と共に紹介します。

建物の安全性を確保するための構造を設計し、技術と感性を持って構造をデザインする構造家の仕事。

1964年に竣工した 国立代々木競技場 は、建築家の丹下健三と構造家の坪井善勝の協働による最高傑作とされています。

新たな建築空間を生み出す創造の過程における構造家の貢献度は高く、今日の日本の豊かな建築文化を支えています。

 

管理人含め、建築の専門外の人たちは、建物の印象を外観や内装などの見た目で判断しがちです。

しかし、人間と同じように建物も中身が大切、いくら外見を取り繕っても中身がスカスカであれば長く愛されることはありません。

様々なリスクから利用者を守る「強さ」、周辺環境や自然環境と調和する「優しさ」、人の目を惹き感動させる「美しさ」は、構造家と建築家のプロフェッショナルな仕事により実現しています。

 

管理人の主業であるWebの世界も、ディレクターがサイトのコンテンツを設計し、クリエイターがサイトのデザインを制作し、エンジニアがサイトのシステムを構築するといった協働で成り立っています。

設計の対象物や規模は違えど、仕事のプロセスや役割がすごく似ているため、建築関係者の仕事のプロセスから学びを得ることがしばしばあります。

 

施主や建築家の要望を聞きつつ、安全性を担保する構造設計で利用者の命を守る使命を担う構造家の仕事。

試行錯誤の痕跡が残る資料や思想が詰まった映像を通して建物の構造への興味関心が増す展覧会でした。

展示風景

基礎知識

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編集 早川玲未

イラスト・デザイン 佐久間茜

建築の構造って何?

建物の構造を人間に例えると、皮膚は外観、骨は構造、内臓は設備、と言った具合です。

人間と同じように、その骨格となる構造は外観や設備にも大きく影響するため、建築を設計する上で構造を考えることが非常に重要となるのです。

1つの建築ができるまで

主に5つのプロセスを経て建築は完成します。

【1】企画:発想・提案

【2】計画:構造システム検討・法規チェック

【3】基本設計:空間構成・構造計画検討

【4】実施設計:安全性確認・図面作成・仕様決定

【5】施工:工事監理・品質検査

構造家は、建築家のイメージする空間を実現すべく、建築家との対話を繰り返しながら構造システムを検討します。

対話の中から生まれる構造家のアイデアから、建築家のイメージが出来上がることもあります。

構造家と建築家の協働

日本の有名建築には必ず、構造家と建築家の協働が存在しています。

自然災害の多い日本では、建築に対する構造デザインの重要性はとても高く、建築における役割の多様化に伴い、必然的に構造家という職能が成立しました。

構造の主な種別

木造:日本の伝統建築

S造:鉄骨造・鋼構造

RC造:鉄筋コンクリート造

SRC造:鉄骨鉄筋コンクリート造

組積造:レンガ・ブロック

構造の形式

ラーメン:ドイツ語で額縁の意味を持つ、柱と梁が剛接合で一体化した形式。

ブレース:筋交いと呼ばれる斜材が、柱・梁と共にピン接合で組み立てられた形式。

トラス:部材を三角形になるようにピン接合で組み立てた形式。

シェル:貝殻の意味を持つ薄い曲面板の形式。

他にも、壁式構造・アーチ構造・膜構造・吊り構造・ケーブル構造など様々な形式が存在します。

地震への対応

耐震:部材の強度と粘りで揺れに耐える構造

制震:制震装置でコントロールし揺れを吸収する構造

免震:免震装置で遮断し揺れを逃す構造

気になったプロジェクト

日本万国博覧会:お祭り広場大屋根

構造展 -構造家のデザインと思考-_11
構造設計 坪井善勝/川口衛
意匠設計 丹下健三
竣工 1970年
場所 日本、大阪府

メカニカルファスナーとなる鋳鋼ボールジョイントと透明空気膜パネルで構成されたスペースフレーム。

三角形と正方形のグリッドを繋げて軽やかな屋根と大らかな空間を作り上げた建築です。

東京都庁

構造展 -構造家のデザインと思考-_12
構造設計 武藤清
意匠設計 丹下健三
竣工 1991年
場所 日本、東京都

分散配置されたコアをK型ブレースを用いた一層分の梁で連結した庁舎。

超高層ビルが建ち並ぶ西新宿で圧倒的な力強さと存在感を放つ建築です。

東京国際フォーラム

構造展 -構造家のデザインと思考-_13
構造設計 渡辺邦夫
意匠設計 ラファエル・ヴィニオリ・ベセイロ(Rafael Viñoly Beceiro)
竣工 1996年
場所 日本、東京都

シンボリックなガラスのアトリウムが特徴的な光溢れる公共空間を持つ文化複合施設。

館内の随所にアートワークを設置するなどイベント参加者以外の訪問者も歓迎する建築です。

IRON HOUSE

構造展 -構造家のデザインと思考-_14
構造設計 梅沢良三
意匠設計 椎名英三
竣工 2007年
場所 日本、東京都

コールテンで覆われた地上階と鉄筋コンクリートの地下階で構成されたハイブリット住宅。

侘び寂びの文化を持つ日本人の心を惹き付ける茶褐色の錆が美しい建築です。

ホキ美術館

構造展 -構造家のデザインと思考-_15
構造設計 株式会社日建設計:向野聡彦・朝川剛
意匠設計 株式会社日建設計:山梨知彦・中本太郎・鈴木隆・矢野雅規
竣工 2010年
場所 日本、千葉県

2枚の鋼板を250mm感覚で接合したチューブ状の展示室が特徴的な美術館。

直径64mmの穴の裏に配されたダクトやLED照明が快適な鑑賞体験を提供する建築です。

東京工業大学附属図書館

構造展 -構造家のデザインと思考-_16
構造設計 竹内徹
意匠設計 安田幸一
竣工 2011年
場所 日本、東京都

二等辺三角形の外観からチーズケーキという愛称で親しまれる日本最大級の科学技術図書館。

安定性を担保するV字型とY字型の柱がガラス張りのファサードの美しさをより引き立てる建築です。

リボンチャペル

構造展 -構造家のデザインと思考-_17
構造設計 Arup:柴田育秀
意匠設計 中山拓志
竣工 2013年
場所 日本、広島県

瀬戸内の島並みを360度見渡す小高い山の中腹に建つ礼拝堂。

2つの螺旋階段がお互いに支え合うことで結婚という行為そのものを具現化した建築です。

さとうみステーション

構造展 -構造家のデザインと思考-_18
構造設計 陶器浩一
意匠設計 陶器浩一/o+h:大西麻貴・百田有希/永井拓生/株式会社高橋工業
竣工 2013年
場所 日本、宮城県

津波で全壊し早急な復旧と安価な建設が求められたガソリンスタンド。

アーチ状に曲げられた厚さ6mmのコールテン鋼の内側にワイヤーを配することで強度を担保した建築です。

籤:HIGO

構造展 -構造家のデザインと思考-_19
構造設計 山脇克彦
意匠設計 中山眞琴
竣工 2014年
場所 日本、北海道

4.5mmの厚鋼板棚を耐震要素・60mmの角鋼柱を鉛直荷重支持のみとして外力抵抗要素を分離したオフィス。

「細く」「薄く」「小さく」をキーワードに竹籤のような細い部材で建てられた繊細な建築です。

W350計画

構造展 -構造家のデザインと思考-_20
構造設計 株式会社日建設計:原田公明・福島孝志・瀧口真衣子・重松瑞樹
意匠設計 株式会社日建設計:山梨知彦・羽鳥達也・青柳創・加瀬美和子

高層建築物の木造化で街を森に変える環境木化都市の実現を目指す研究技術開発構想。

外周部を全て鉄骨制振ブレスチューブ架構とすることで風や地震に耐えうる剛性を確保する建築です。

構造家名言集

管理人がグッときた10人の構造家の名言をご紹介します。

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「建築の美しさは構造的合理性の近傍にある。」坪井善勝

構造展 -構造家のデザインと思考-_22

「構造デザインとは単なる知識や技術の機械的な適用ではなく、五体・五官を総動員して行う、全人格的な作業である。」川口衛

構造展 -構造家のデザインと思考-_23

「建築家の創造を具現化するために出来る限り支援する。」木村俊彦

構造展 -構造家のデザインと思考-_24

「建築において、巨大構造・高さ競争だけが評価されるのではない。小さくても本当に大事なものがある。」中田捷夫

構造展 -構造家のデザインと思考-_25

「自分の武器を持たない者は、自由を獲得するなどできるはずがない。」佐々木睦朗

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依頼された時に構造システムが決まっているいないに関わらず、一体この建築は何を実現するために存在するのかをもう一度考えたい。」金箱温春

構造展 -構造家のデザインと思考-_27

「大工は本来ならば、作る技術に加えて解体する技術も持っているので、移築も可能なはずだった。その技術が今は失われている。」山辺豊彦

構造展 -構造家のデザインと思考-_28

「構造は人を元気にする仕事。頭で考えるのではなく等身大で考える。」陶器浩一

構造展 -構造家のデザインと思考-_29

「実際に物を作って、物がどうやって壊れるのかを学ばないといけない。」竹内徹

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「構造家は、図面で描いた1本の線が断面になって柱になって梁になって、実際に地震や台風が来た時に倒れないことを保証する命がけの仕事だが、実はその中には物凄い面白さや楽しさがあることを伝えたい。」斎藤公男

世界建築巡りについて

世界建築巡りは、IA(情報アーキテクト)の山田育栄が訪れた世界の建築やプロジェクトなどの情報を紹介するサイトです。

建築学生や建築関係者はもちろん、国内外へ旅行する方などにも見ていただきたいと思っています。

一人でも多くの人に世界へ足を運んでほしい。

建築に触れると同時に、人との出会いや自己の発見といったかけがえのない機会に遭遇するでしょう。

インターネットの発達により世界中の情報を知ることはできますが、実体験に勝るものはありません。

このサイトが、訪れる国をより楽しむためのガイドブックになれば幸いです。

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