未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか
展覧会の内容
最新の科学技術とその影響を受けて生まれたアート・デザイン・建築を通して近未来を考察する展覧会『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』へ行ってきました。
20~30年後の世界の可能性について考えると同時に豊かさや生命についての根源的な問いへと繋げます。
1960年代に日本人建築家たちが夢見た理想の都市像をテーマに、2011年に開催された「メタボリズムの未来都市展」より着想を得た今回の展覧会。
現在の情報処理技術やバイオ技術を援用し、60年前に思い描いたメタボリズム都市を実現する可能性を探ります。
都市・建築論に始まり、私たちの身体・生活・世界観へと視野が広がる。
新しい現実認識やヴィジョンが競い合う創造活動のフロンティアで、アートと科学技術の境界は消滅していきます。
インターネットやテクノロジーの発達により、簡単にモノや情報を手にすることができる現代。
「テクノロジーの力は正しい形で使われてほしい」と思う一方で、人それぞれに異なる「正しさ」の基準。
様々な展示作品に心を揺さぶられ、自分の固定観念や人間中心の世界観を見直す必要性に迫られています。
沢山の選択肢がある中で何を取捨選択するのか、最終的には私たち一人ひとりのモラルや理性などの判断に委ねられます。
確かな正解がない中で、自分なりの答えを導き出す思考力の重要性を実感する展覧会でした。
展示風景
【1】都市の新たな可能性
現在進行中の都市計画や未来都市像を紹介するセクション。
砂漠・海上・空中など、既成概念を超えた場所での生活に向けた挑戦です。
マスダール・シティ:Masdar City
設計 | フォスター+パートナーズ(Foster + Partners) |
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アラブ首長国連邦のアブダビで建設中の640ヘクタールに及ぶ都市計画。
低層・高密度・複合用途の建築、化石燃料を使用しない車両、風力・太陽光発電所など。
再生可能エネルギーとクリーン・テクノロジーの力で、石油に依存しないエネルギーの完全自給を目指すプロジェクトです。
Xクラウド・シティ:X CLOUD CITY
設計 | XTUアーキテクツ(XTU Architects) |
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雲の上の大気圏内に浮かぶ居住空間の提案。
多様な機能を持つモジュールを3Dプリンターで制作し、人口や用途に合わせて自由に組み立てる。
人口過密・大気汚染・地球温暖化の進行で、地表に住むことが難しくなる未来を考えさせられるプロジェクトです。
2025年大阪・関西万博誘致計画書:EXPO 2025 OSAKA,KANSAI,JAPAN venue design for bidding
データ提供 | 経済産業省 |
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2025年に開催予定の大阪・関西万博の会場の計画案。
「非中心」「分散」をテーマに、個と集団、物質世界と情報世界の間で変化する関係性を表現。
自立型モビリティ・AR・MRなどの新技術を活用した、次世代の都市構造モデルです。
【2】ネオ・メタボリズム建築
新しい素材や工法の研究・開発による建築原理の刷新を考察するセクション。
環境問題や人口問題の解決策として、自然と共存し柔軟に変容する有機的建築の可能性を探ります。
球体:The Orb
制作 | ビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels)ヤコブ・ランゲ(Jakob Lange) |
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アメリカのネバダ州北西部の荒地で開催されたフェスティバル「バーニング・マン」で発表された作品。
スチール製の帆柱に支えられた、直径25メートルの巨大な鏡面の球体。
地球の鏡・日除け・惑星のアイコンとして、パーティーを盛り上げるミラーボールとしての役割を果たす作品です。
ムカルナスの変異:Muqarna Mutation
制作 | ミハエル・ハンスマイヤー(Michael Hansmeyer) |
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小さな窪みが層を成して繰り返すイスラム建築の形式「ムカルナス」を抽象化した作品。
コンピュータが作成したデザインデータに従い、1つ1つ異なる長さのパイプをロボットが制作。
デジタル技術が生み出した、ロジカルな冷たさと新しい美意識を同時に感じる作品です。
気分の建築:an Architecture of Moods
制作 | ニュー・テリトリーズ(New-Territories)フランソワ・ロッシュ(Francois Roche) |
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住人の深層心理や生理学的な情報を計測・解析し理想の集合住宅を制作する提案。
計測・解析した情報を基にロボットが設計し、バイオセメントを素材にロボットが施工。
住人の隠れた願望を引き出し、人間の想像力では生み出せない予測不可能な形状を楽しむプロジェクトです。
【3】ライフスタイルとデザインの革新
最先端のテクノロジーや斬新なコンセプトにより誕生したサービスや製品にフォーカスするセクション。
新しいライフスタイルの可能性と、人々の意識の変化やモラルの在り方を探ります。
インターナル・コレクション:Internal Collection
制作 | エイミー・カール(Amy Karle) |
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人間の靭帯と腱・肺・神経系などの体内組織をテーマに制作したドレス。
3Dスキャンした身体データを基に、CADによるデザインとパターンのレーザーカットを施す。
最新技術と職人技術を駆使し、人間の内部に存在する美しさと繊細さを具現化した作品です。
ザ・マン・マシン:The Man Machine
撮影 | ヴァンサン・フルニエ(Vincent Fournier) |
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日常の様々な場面に溶け込むロボットを撮影した写真シリーズ。
美術館を徘徊し、街を散歩し、バスケットボールを楽しむ。
明確な役割を持たず人間と同じように生活を楽しむ姿に、親しみと不気味さを感じる作品です。
スシ・シンギュラリティ:SUSHI SINGULARITY
制作 | オープン・ミールズ(OPEN MEALS) |
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インターネット上での食の制作・編集・共有を可能にするプロジェクト。
SSSB(Salty・Sweet・Sour・Bitter)という「味の4原色」を基に寿司をデータ化し、米粉・寒天・大豆・海藻などを原材料に3Dプリンタやロボットアームで造形化。
これまでにない流通や食感を作り出し、人間の食文化に革命を起こすプロジェクトです。
【4】身体の拡張と倫理
テクノロジーがもたらす変化と倫理的な問題について考察するセクション。
先端医療やバイオ技術によって起こりうる問題と向き合い、徹底的な議論と国際基準の制定を進める必要があります。
乙武プロジェクト:OTOTAKE PROJECT
制作 | 遠藤謙(Endo Ken) |
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作家・タレントとして活躍する先天性四肢欠損の乙武洋匡氏の義肢開発プロジェクト。
2018年に7.3メートルの歩行に成功し、現在は軽量化されたカーボン素材の義足を使用する乙武氏。
自然な身体と自然な歩行を目標に、障害者それぞれが使いやすい義肢の開発に邁進するプロジェクトです。
進化の核心?:The Heart of Evolution?
制作 | エイミー・カール(Amy Karle) |
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3Dプリンターで制作した心臓で新しい血管系構造を提案する作品。
生物工学を用いて人類を永久に変容させる行為は、自然界に生きる人類にとって正しい選択なのか?
再生医療の進化に寄せられる期待と、自然の摂理に反する行為の正当性を考えさせられる作品です。
親族:Kindred
制作 | パトリシア・ピッチニーニ(Patricia Piccinini) |
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オラウータンと人間の交配種で生まれた母親と子供の彫刻。
オラウータンに近い容子の母親と、人間に近い様子の子供から感じる親子愛。
命や臓器の人工的な創造は進化と呼べるのか、どこまで許されるのかを考えさせられる作品です。
【5】変容する社会と人間
テクノロジーの発展に伴う新しい人間像や社会像を考案するセクション。
考え方や社会制度の刷新はもちろん、「人間とは何か」「幸福とは何か」「生命とは何か」という根源的な問いへと導きます。
私たちと彼ら:Us and Them
制作 | マイク・タイカ(Mike Tyka) |
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AIが作り出した架空の人物たちの肖像とツイートを組み合わせたインスタレーション。
2016年のアメリカ大統領選挙で問題となった、トランプ氏を支持するbotアカウントのツイートを機械学習しAIを制作。
デジタル空間の危うさを現実空間で具現化し、情報を精査することの重要性を喚起する作品です。
末期医療ロボット:The End of Life Care Machine
制作 | ダン・K・チェン(Dan K. Chen) |
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白く無機質なパーツで構成された人間の死を看取るロボット。
「ご家族・ご友人が来られず残念ですが、快適な死をお迎えください。」と慰められながら、一人きりで他界する滑稽なワンシーン。
一人で苦しむよりも、ロボットに痛みを和らげてもらいながら死ぬことを選択する未来を示唆する作品です。
深い瞑想 60分で見る、ほとんど「すべて」の略史:Deep Meditations A brief history of almost everything in 60 minutes
制作 | メモ・アクテン(Memo Akten) |
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雄大な自然の風景が揺らめきながら緩やかに変化する映像。
写真共有サイトのFlickrで「everything」とタグ付けされた写真をニューラル・ネットワークに機械学習させ、その学習データに基づき人工知能が自動生成する。
既視感がありつつも実在しない景色に、超常的な世界への美しさと憧れを感じる作品です。