en[縁]:アート・オブ・ネクサス――第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館帰国展
会期 | 2018年1月24日(水)~ 2018年3月18日(日) |
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会場 | TOTOギャラリー・間 |
住所 | 東京都港区南青山1-24-3[地図] |
アクセス | 乃木坂駅 徒歩1分 |
公式サイト | TOTOギャラリー・間 |
展覧会の内容
第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館帰国展『en[縁]:アート・オブ・ネクサス――第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館帰国展』へ行ってきました。
出展作家たちの瑞々しい感性から生み出される建築とビエンナーレ以降の取り組みについて紹介します。
2年に1度開催される建築界のオリンピックとの異名を持つ祭典ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展。
80年代の若手建築家も多数出展しており展示を通してその国の社会問題や多様な感性に出会える場所。
2016年はチリの建築家アレハンドロ・アルベラが掲げる「Reporting From The Front」がテーマ。
モダニズムを通して失ってきた社会の様々な結び付きをアジア的なコンテクストの中で捉え直した日本館。
「人の縁」「モノの縁」「地域の縁」という3つのテーマが人々の共感を獲得し特別表彰を受賞しました。
世界規模で見ると非常に端っこにある日本の活動。
そんな極東の島国が抱える社会問題を取り上げた展示にも関わらず世界から共感を得たのはなぜなのか?
貴族の歴史と共に作られてきたヨーロッパの建築には無い独特の魅力を持つ日本の建築。
日本に生まれ日本文化で生きてきた私たち自身が気付かない魅力が他国の人々の心を捉えたのだと思います。
金獅子賞に輝いたのはスペイン館の「Unfinished:終わらず」の展示。
1986年に欧州連合に加盟し他の加盟国を追いかけるように経済成長を続けたスペイン。
1990年代後半からは不動産及び建設業の内需が成長力となり多くの建設プロジェクトが乱立。
2007年以降は世界金融危機の影響を受け多くの建設プロジェクトが休止状態に。
建設が止まり廃墟と化した建物の中で生活する住民を捉えた写真たち。
不完全な場所でたくましく生きようとする人々の姿に胸を打たれます。
展示を通してそれぞれの国が抱える社会問題が浮き彫りになる。
人の居場所を作る建築のパワーと未来の可能性に期待を寄せる展覧会でした。
展示風景
ヴェネチア・ビエンナーレの概要と出展作品を紹介する3階の展示室。
1956年に建設された吉阪隆正設計の日本館。
日本館の展示風景。
常山未央/mnm「不動前ハウス」東京都
核家族用の住宅と倉庫を他人同士の7人の共同生活のために再生させた住宅。
単身生活では得難い豊かな居住環境を血縁にこだわらない集住という形を通して獲得します。
西田司+中川エリカ「横浜アパートメント」神奈川県
1階の共用部を個々がカスタマイズできる住宅。
違う文化やライフスタイルを持つ者同士が混ざり合うことで新しい価値が生まれます。
成瀬・猪熊建築設計事務所「LT城西」愛知県
個が繋がる時代の新しい住まいの形として新築で計画されたシェアハウス。
血縁関係にない人同士が集まって生活する家として様々な使い方と距離感を生み出します。
仲建築設計スタジオ「食堂付きアパート」東京都
食堂や住宅に組み込まれた仕事場を媒介に地域に開かれた生活環境を作る住宅。
プライベート空間から街までが相互浸透的な中間領域を孕みながら連続し関わり合いが生まれています。
能作アーキテクツ「高岡のゲストハウス」富山県
1つの家屋を祖母の住まい・コモンダイニング・ゲストルームの3つに分解したプロジェクト。
解体時に発生したマテリアルも新たな資源としてリユースし古い建物に新たな息吹をもたらしています。
今村水紀+篠原勲/miCo.「駒沢公園の家」東京都
木造密集地域における住宅の改修。
既存の木軸と新規の構造が渾然一体となった明るく瑞々しい空間が生まれています。
中川純/レビ設計室「15Aの家」東京都
地震に強い・建築家自身が施工可能・15アンペアで不自由なく暮らせるという3つの条件で設計した自邸。
生存に必要な光・熱・風といった環境を取り込む操作が綿密な解析の基に建設されています。
増田信吾+大坪克亘「躯体の窓」千葉県
既存の鉄筋コンクリート2階建ての建物より大きく3層分にまで拡大された窓。
窓というエレメントが室内と庭の前提条件を変え身体と環境に対する拡張された感覚を生み出しています。
403architecture[dajiba]「渥美の床」静岡県
天井の野園をカットし床に敷き詰めるプロジェクト。
材料の調達といったモノのネットワークを設計対象としマテリアルの流動の中に建築を位置付ける試みです。
青木弘司建築設計事務所「調布の家」東京都
あらゆる雑多なモノが孕む無数の時間を等価に捉えモノの関係性を綴蜜に練り上げるように設計した住宅。
住まう人間が持続的に関わり合いながら日々刻々と変化していく生きられる空間を実現する試みです。
BUS「神山町プロジェクト」徳島県
人口減少・過疎化・高齢化が進む地域に建設されたオフィス群。
個々の活動が地域へと繋がる関係性を作り出すためインフラの形を模索しています。
ドットアーキテクツ「馬木キャンプ」香川県
人口減少・過疎化・高齢化が進む瀬戸内海の小豆島に建設された建物。
簡易な構法によりセルフビルド可能で地域交流を促進する社会実験の場として機能しています。
ヴェネチア・ビエンナーレの出展作家たちのその他のプロジェクトを展示した4階の展示室。
国際的な舞台での経験をどう受け止め現在何を目指して建築を作っているかを紹介。
今に寄り添いながら未来の在り方をも提示する建築家の仕事の尊さを改めて感じました。
講演会
日程 | 2018年2月16日(金) |
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タイトル | en[縁]:アート・オブ・ネクサス、その先へ |
モデレーター | 塚本由晴/山名善之 |
パネリスト | 槇文彦/西田司/猪熊純/能作文徳/伊藤暁 |
ヴェネチア・ビエンナーレで感じたことや建築への取り組みについての話を簡単にまとめます。
槇氏
和やかさや細やかさなど出展作品はどれも非常によく似ている。
1937年のパリ万国博覧会以降日本人建築家のデザインは変わらないように思う。
日本文化で生きてきた日本人のDNAがそうさせるのか?
はたまた1920年代に一世を風靡したモダニズム建築を超えられてないのか?
一方で近年はスリランカやエストニアなど先進国以外で面白い建築が続々と生まれている。
ヨーロッパが直面する難民問題は過去の世界大戦における植民地化の影響。
自らが作り出した矛盾がブーメランとなり返ってきている。
塚本氏
建築のデザインは今も昔もその時代の思いを形にするもの。
今は共感が建築を作る時代。
最近の若手建築家は似た概念を違う表現で設計している。
山名氏
コルビュジエが活躍した近代は建築の型があり規範を意識した設計が求められた。
1990年代以降は近代建築の規範の中で生きていくことに疑問を感じ始め今に至る。
今もなおモダンムーブメントを持ち続けているヨーロッパ人と違う感性を日本人は持っている。
西田氏
壁や仕切りで建築が作られていた近代は人の生き方も効率化され過ぎていた。
インターネットが発達した現代は違う。
自分のテリトリーと外部の境界線が曖昧で緩やかに繋がっている状態が丁度いい。
猪熊氏
社会が変われば建築も変わる。
建築を通して多様性の種を作り誰もが排除されず自由に生きられる社会を作りたい。
人は1人では生きていけないし家族ではないまとまりがあってもいい。
能作氏
第二次世界大戦後人口が増え続けた時代は人間社会を中心に物事が考えられてきた。
今は人口減少・過疎化・高齢化が進み都市と田舎の溝は深まるばかり。
今後は役目を終える建築が増えるため建築から出る廃材はリユースしたり自然に還せるものでありたい。
伊藤氏
中東・アフリカ諸国から100万人を超える難民がヨーロッパに押し寄せた2015年。
難民を受け入れる住宅をテーマにしたドイツ館の展示は非常に象徴的だった。
そこで何が行われるかを重視した建築を作りたい。