日建設計エンジニアリング部門構造設計グループ企画展示「STRACTS(STRUCTURE+ACT⊃CONNECTION)」
展覧会の内容
「強・用・美」の均整が取れた建築を生み出し続けるために挑戦と研鑽を続ける構造設計グループの展覧会『日建設計エンジニアリング部門構造設計グループ企画展示「STRACTS(STRUCTURE+ACT⊃CONNECTION)」』へ行ってきました。
展示やVR体験を通して構造設計グループの技術・サービス・創造性を身近なものとして体感します。
技術センター・コストマネジメントグループ・設備設計グループ・構造設計グループ・監理グループからなる日建設計のエンジニアリング部門。
安全・安心の確保はもちろん「心に響く技術」をモットーに全エンジニアが結集して取り組んでいます。
建物を取り巻く様々な要素を洗い出し事故や災害などの発生しうるリスクを計算。
リスクを回避&軽減するために必要な建物の骨組みを設計する。
高い専門性と先見性が要求される構造設計の仕事の尊さを感じる展覧会でした。
【1】構造の進化の歴史
日建設計が手掛けた高さ200メートル以上のプロジェクト模型を年代順に展示。
管理人が気になった6つのプロジェクトについて簡単にまとめます。
東京タワー
竣工 | 1958年 |
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場所 | 日本、東京都 |
高さ | 333メートル |
半径100km圏に電波を送り観光施設として愛されることを目的に建設された電波塔。
安全性を最優先した無駄のないデザインを保ちつつ定期的に制振改修が行われ関東地震に備えています。
瀬戸デジタルタワー
竣工 | 2003年 |
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場所 | 日本、愛知県 |
高さ | 245メートル |
名古屋地区をカバーする地上波デジタル放送の電波を発信する放送塔。
優雅なフォルムのパイプを大組みすることで工期短縮を実現しました。
東京スカイツリー
竣工 | 2011年 |
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場所 | 日本、東京都 |
高さ | 634メートル |
江戸文化が栄えた下町とその文化の再興を担う新しいシンボルとなる電波塔。
鉄筋コンクリートの心柱上部が重りとして機能する制振システムを採用しています。
蘇州現代メディアプラザ
竣工 | 2015年 |
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場所 | 中国、江蘇省 |
高さ | 215メートル |
蘇州テレビの本社とスタジオ群を核とした複合施設。
L型タワーが巴形に配置されその間のガラス屋根が優美な曲線を描きます。
TADAWUL TOWER
竣工 | 2022年 |
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場所 | サウジアラビア、リヤド市 |
高さ | 200メートル |
経済新都心KAFDの中心に位置するアイコニックで機能的なサウジアラビア証券取引所の本社。
底部の四角形が頂部の五角形へと徐々に変化するエレガントな形状を有します。
One Za'abeel
竣工 | 2023年 |
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場所 | アラブ首長国連邦、ドバイ市 |
高さ | 333メートル |
高架道路の間を縫うように建つオフィス・商業施設・宿泊施設・公共広場の複合施設。
地上100メートルの高さで2つの棟を繋ぐキャンティレバーブリッジが幻想的な空中歩行を実現します。
【2】構造設計の流れ
構造計画・基本設計・実施設計・工事監理など。
構造設計の基本的なフローを6つのプロジェクト映像と共に紹介します。
- 真宗本廟御影堂(修復工事)
- 原爆ドーム(修復工事)
- 名古屋市科学館・理工館・天文館
- 東京駅八重洲口(開発グランルーフ)
- ホキ美術館
- 新国立競技場(ZHA案)
【3】構造模型
2020年の東京オリンピック開催に向けた新国立競技場の国際設計競技案をクローズアップ。
2012年の国際設計競技で最優秀賞に輝いたイギリスの建築設計事務所 Zaha Hadid Architects の設計案。
風洞実験に使用された300分の1の縮尺模型・キールアーチの模型・神宮外苑エリアのVR。
日建設計・梓設計・日本設計・アラップ設計共同体のぶ厚~~~い構造設計説明書などを展示しています。
建設の難易度・工期・コスト面などで課題を抱えながらもデザインの修正を加えながら邁進していた矢先。
ZHA案に反対する建築関係者・世論・マスコミの煽りを受けて2015年7月に安倍首相が白紙撤回を発表。
実現できなかったZHA案の魅力はもちろん建設に向けて動いていた関係者の頑張りと無念が伝わってきました。
関連イベント 東京オペラシティ・アートギャラリーで行われた展覧会「ザハ・ハディド展」
関連建築 管理人が訪れたザハ・ハディッドの建築「ファイヤー・ステーション」
関連建築 管理人が訪れたザハ・ハディッドの建築「MAXXI」
【4】耐震設計の最先端
地球を覆う十数枚のプレートのうち4つのプレートの衝突部に存在する日本列島。
私たち日本人はこの逃れられない宿命を受け入れ過去に学び未来に備えることが必要とされています。
日建設計ではいざという時に人命を守り事業を繋いでいくための様々なシステムを研究&開発しています。
地震に対抗する3種類の構造形式
建物の硬さと強さで地震に抵抗する「耐震構造」
建物内に配置した制振部材で地震エネルギーを吸収する「制振構造」
免震部材で地面から建物を浮かせ制振部材で地震エネルギーを吸収する「免震構造」
日建設計ではクライアントの要望に合わせた最適な地震対策を提案しています。
設計用入力地震動「NS Wave」
地震時の建物の揺れを検証するために必要な地面の揺れを表すシステム。
観測記録を用いた「観測波」長周期領域に着目した「告示波」地盤の特性を評価した「サイト波」の3つの地震動。
将来経験するかもしれない様々な地震を敷地ごとに評価。
2005年のリリース以降全国各地の建物の設計に使用されています。
構造ヘルスモニタリングシステム「NS mos」
地震時の建物の揺れや損傷状況を判定するシステム。
建物内に地震計を設置し得られたデータから建物の揺れをリアルタイムで把握。
損傷状況を即時に分析し地震後の建物の耐震安全性や被災度状況に関する情報を迅速に提供。
被災直後の迅速な避難指示や事業継続の的確な判断を可能にしました。
阿蘇医療センターの罫書き計の記録
免震構造を有する建物が地震を受けて振動する際の建物の動きを記録する罫書き計。
2016年に熊本地震を経験した阿蘇医療センターの罫書き計の記録を展示しています。
大地震でも最悪の難を逃れることができた医療施設
2006年に建設された宮城県石巻市の石巻赤十字病院は2011年の東日本太平洋沖地震を経験。
免震構造の導入や盛り土による基礎の底上げにより津波からの冠水を免れることができました。
2014年に建設された熊本県阿蘇市の阿蘇医療センターは2016年の熊本地震を経験。
免震構造・非常用電源・大容量貯水槽の導入により安定した医療サービスを提供することができました。
仮想地震心理評価システム「地震体験VR」
人間の安心感という尺度で耐震性能を確認するシステム。
地震の種類や建物の構造形式別に建物の揺れを体感することができます。
【5】可変構造への挑戦
空間の用途や環境を変化させるために形を変えることのできる可変構造作品の展示。
「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2018」で移動式の公園「PARK PACK」を出展した日建設計。
強度と軽さを合わせ持つ素材CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)でモジュールを制作。
収納・運搬・組み立てが容易な椅子やテーブルはアイデア次第でシェードや遊具に変貌。
屋外のレジャーや災害時の利用など幅広い活躍が期待されています。